《Dr.もん次朗20》「ミランの手」遠藤友則(小松孝著)紹介12
2026/04/01
「ミランの手」遠藤友則(小松孝 著)より一部抜粋(遠藤氏より許可をいただいております。)
ミランの手、12回目です。
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12)
ミランの治療室には時々、こんな笑い声が木霊している。
新加入の選手が、あまり意欲的に補強トレーニングに取り組もうとしない際、それを促すために、まず「痛いということは~♪」と切り出す遠藤の常套句がある。この言葉が遠藤の口から出ると、その途端、周りの選手やスタッフたちが待っていましたとばかりに、にやけ始める。
そして次に遠感が口を開こうとすると、そのフレーズを覚えてしまった誰かが遠藤に代わって「そこが弱いから痛いということだ」とかぶせる。そしてまた遠康が「弱いということは〜♪そこを鍛えなくちゃいけないということだよね」と優しく語りかけながら、「では、鍛えるということは~♪どういうこと?」と、さらに言葉を進めると、またしても周りの選手の誰かが「全体練習が終わったからといって すぐにシャワーを浴びずに~、居残って 補強トレーニングをしなければいけないんだよね」と締めくくるのである。
この場面がやってくる度に、その場にいる全員が同じ気持ちになって笑い合い、気付けば、最初は清療的だった選手も、まるで子供が親の意見に素直に従うように、遠藤のアドバイスをすんなり受け入れ、補強トレーニングをやるようになるのである。
トレーナーという立場で選手に補強トレーニングを促すようになったきっかけは、遠藤が清水エスパルスで働いていたときまで遡る。選手のなかで腹筋のトレーニングをやると、翌日、恥骨部分(下腹部)に痛みが出るから「やりたくない」という選手がいたという。その痛みの原因について遠酸は、医学的見地からは、複合的にさまざまな理由があるように思えてならず、しばし熟慮したものの、答えを出すのを諦め、長崎に訊いた。すると長崎からの返事は、たったひと言。「そこが弱いからですよ」
この答えに拍子抜けしそうになった遠藤だったが、さすが東洋医学を収めただけあって、閃くものがあった。森羅万象の世の中で、陰と陽、プラスとマイナス、そして弱いは強いと、何事も表裏一体の関係がある。つまりそこに「弱』があれば、別のどこかで「強」が働いている証拠。つまり身体のバランスが崩れていることを表していると、すぐに気付いたのである。
こうした閃きや思考回路が瞬時に働くようになったのも、“もともと”に加えて長崎と共に過ごした時間が長かったことにもよるだろう。人間の脳には、ミラーニューロンと呼ばれる細胞がある。
一例を挙げると、ピアノを習う生徒は、先生が鍵盤を叩く手や指の動きを見ながら、それを真似することによって、より早くより正確に弾けるようになったりするが、それは、このミラーニューロンが活発に動いているからである。同様に、遠藤の思考回路の歯車は、いつしか長崎の思考サイクルにぴたりと合うようになっていったとも考えられる。
そもそも遠藤は、「習うより、慣れろ」を生まれながらにして持っている。これは、父親の職業によるところが大きい。大工で一人前になるには、背中を見て覚えるしかない。それに職人は、目で見て覚えるのではなく、心の中でイメージしながら観なければ、どんな技も身に付かない。
遠藤が清水FCのキャプテンとして頭角を現し始めた小学生時代には、棟梁である父親譲りの才能を発揮して、チームをひとつにまとめていた。加えて、ピッチ上では、憧れの選手のプレーを見ては、「先生、明日から僕もあの選手のようになりたい」と、数日後にはそのプレーを会得してしまい、当時の監督だった綾部たちを驚かせたこともしばしばあった。
しかし当時は、DVDはおろか、ビデオテープすらなかった時代。だから、憧れの選手のプレーを真似したければ、瞼の奥に焼き付けて、脳の中でイメージするしかなかった。そのため知らず知らずのうちに観察力やイメージ力が鍛えられ、そのなかでも群を抜く存在だった遠藤は、サッカーがうまいだけではなく、ずっとキャプテンシーを発揮し続けるようにもなっていったのである。
本質を見極める目。これを持っていなければ、どんな分野でも生き残っていくのは難しいだろう。
量は質を生む。考えながらひとつのことをとことんやり抜いた人間は、必ずその分野の本質を悟るようになる。「やってやる!」という意欲がなければ何も始まらないが、知識や手先の器用さだけではなく、常に考えることを怠らずに努力を続ければ、いつしか遠藤のようなトップトレーナーになれるのではあるまいか。
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以上、ミランの手、遠藤友則、(小松孝、著)からの抜粋でした。
≪つづく≫
Dr.もん次朗#20(4.1)






